口下手・人見知り・内向的でも売れる営業術「サイレントセールス」の極意/有限会社ピクトワークス 代表取締役 渡瀬謙

営業と聞くと、多くの人が「明るくておしゃべりが得意な人」「初対面でもすぐに仲良くなれる人」を思い浮かべるかもしれません。特に日本の営業現場では、ハキハキとした声、絶えない笑顔、テンポの良いトークが“売れる営業マン”の必須条件のように語られることもあります。

しかし、もしあなたが口下手で、人見知りで、内向的な性格だったらどうでしょうか。「自分は営業に向いていない」「この仕事で成果を出すのは無理だ」と感じてしまう人も多いはずです。

実際、私が出会った営業トレーナー渡瀬謙先生も、かつては典型的な内向型で、子どもの頃から人と話すのが苦手。学校から帰るまで一言も誰とも話さない日が当たり前にありました。

大学を卒業してもその性格は変わらず、営業という職業は自分には向かないとわかっていながらも、「強制的に人と話す環境に身を置けば変われるかもしれない」という淡い期待から、営業の世界に飛び込みました。

ところが、最初の半年間はまったく成果が出ず、売上ゼロ。周囲は明るく饒舌で、次々と契約を取ってくる“営業らしい”人ばかり。その中で孤立感を強め、「やはり自分には向いていない」と退職を考えるほど追い込まれていました。

そんな時、当時の上司からかけられた一言が人生を変えます。「お前は無理にみんなと同じやり方をしなくていい。もっと静かな営業をやってみたらどうだ」。

その上司は普段はおしゃべりで盛り上げ上手なタイプでしたが、実際の営業現場では驚くほど静かで淡々とした対応をしていました。

その姿を目の当たりにした渡瀬謙先生は、「これなら自分にもできそうだ」と感じ、無理に明るく振る舞うのをやめ、素の自分に合った営業スタイルを模索し始めます。

そして、半年間ゼロだった成績が、その後わずか4か月で営業トップへと一変。この経験から生まれたのが、渡瀬謙先生が提唱する「サイレントセールス」です。

サイレントセールスの3本柱

渡瀬謙先生の営業術は、「喋らない」「相手に喋ってもらう」「物で見せる」という3つの柱で構成されています。

まず、自分が喋らないこと。口下手な人が無理に饒舌になろうとすると、不自然さや緊張が相手に伝わってしまい、かえって信頼を損ねる場合があります。そこで、会話の主導権を握ろうとせず、静かに相手の話を引き出すことを優先します。

次に、相手に喋ってもらうこと。人は自分の話を聞いてくれる相手に好感を抱き、安心感を覚えます。質問によって相手が知っている話題や興味のあることを引き出せれば、会話は自然と続きます。

そして三つ目が「物で見せる」ことです。口頭で「この商品はすごい」と説明するより、資料やデータ、実物を提示したほうが説得力が増します。営業トークはお客様にとって“売るための言葉”に聞こえがちですが、数字や事例、ビジュアルを使えば、より信頼されやすくなります。

アイスブレイクは“盛り上げ”ではなく“観察”から

サイレントセールスにおいて重要なのが、最初のアイスブレイクです。多くの営業マンは、初対面の場を盛り上げるために明るい雑談を試みますが、内向的な人にとってこれは大きな負担です。

渡瀬謙先生は、相手を笑わせる必要もなければ、自分の話をする必要もないといいます。代わりに行うのは「観察」です。

相手の服装、持ち物、デスクの上の書類や小物、会社の内装など、目に見える情報から共通点や話題のきっかけを探ります。そして、それに基づいて質問を投げかけることで、相手が答えやすい会話を始めます。

例えば、デスクに飾られた旅行の写真や、業界特有の専門書、会社の掲示物などは絶好の話題の糸口になります。こうした観察ベースの質問は、相手が答えやすく、会話のキャッチボールが自然に生まれやすいのです。

ガードを下げれば営業は楽になる

営業がうまくいくかどうかは、最初の数分で相手の心の扉を開けられるかにかかっています。ガードが下がり、信頼関係が芽生えれば、その後のヒアリングや提案が多少不十分でも成約につながる可能性が高まります。

逆に、警戒心が解けないままでは、どれだけ丁寧に説明しても響きません。サイレントセールスでは、相手に多く喋ってもらうことでリラックスした空気をつくり、自然と信頼を得ることを重視します。

結果的に、商品の魅力はデータや事例で静かに伝えられるため、押し売り感がなく、相手の納得度が高まります。

自分に合った営業スタイルを選ぶ勇気

渡瀬謙先生は「営業の道は一つではない」と繰り返し強調します。

多くの会社はマニュアルを用意し、標準化された営業トークや手順を教えます。もちろん、最初はそれを試すことは大切ですが、「どうしても合わない」と感じたら、無理に続ける必要はありません。

大切なのは、自分にとって自然にできる方法、自分の強みを活かせる方法を探すことです。

内向型の人にとって、無理に外向型の振る舞いを続けることは消耗でしかありません。むしろ、落ち着いた態度や誠実さ、観察力といった内向型の強みを活かす方が、長期的に見て成果につながります。

明るく元気な営業が売れない場合もある

世間では「明るく元気な営業マンが売れる」というイメージがありますが、渡瀬謙先生は必ずしもそうではないと断言します。実際、あまりにも営業らしい振る舞いは相手に警戒心を与え、「売り込まれるのではないか」という不安を抱かせます。

一方、静かで落ち着いた態度は“営業っぽさ”がなく、相手に安心感を与えやすいのです。特にBtoB営業や高額商品の販売では、この信頼感が成約の鍵になります。

まとめ:サイレントでも売れる時代

現代の営業環境は、かつての“押しの強い営業”から“信頼関係重視の営業”へと変化しています。

顧客はインターネットで情報を集め、比較検討し、自分のペースで判断します。そのため、営業マンに求められるのは、必要な情報を的確に提供し、安心して決断できる環境を整えることです。

サイレントセールスは、その時代の流れに合った営業スタイルであり、口下手・人見知り・内向的な人でも十分に成果を出せる方法です。

もし今、営業に苦手意識を持っているなら、「もっと喋らなきゃ」と自分を責めるのではなく、「どうすれば喋らずに売れるか」を考えてみてください。

観察力を磨き、相手に話してもらい、物やデータで魅力を伝える。この3つの柱を意識するだけで、営業は驚くほど楽になり、成果もついてきます。

そして何より、自分らしい営業スタイルを見つけることが、長く続けられるキャリアへの第一歩なのです。

【新刊本】事業復活マーケティング: 39業種109社を崖っぷち経営から救った!赤字事業を黒字化する18の戦略 (Sales Engine)

ご注文はこちら ●崖っぷち6社の驚くべき逆転劇の秘密を完全解説●34業種109社で成果実証済みの事業復活メソッド●小予算やリソースでも短期間に劣勢逆転を狙う経営戦略 営業…