日本企業がSFAを導入しても営業成績が上がらない本当の理由/株式会社NIコンサルティング 代表取締役 長尾一洋

近年、多くの日本企業がSalesforceなどのSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)を導入しています。

しかし導入後も営業成績が思ったほど向上せず、「ツールは入れたが効果が出ない」という声は少なくありません。

なぜこれほどまでに、日本ではSFAの導入効果が限定的になってしまうのでしょうか。その背景には、アメリカと日本の営業スタイルや雇用慣行の違いが深く関係しています。

SFAはもともとアメリカ型の営業文化に合わせて開発されたもので、アメリカでは営業担当者の多くがコミッション制(完全歩合)で働き、場合によっては社員ではなくエージェントやセールスレップとして活動しています。

彼らは売れなければ報酬がゼロのため、見込み案件の情報を入力することが自分の成果と直結します。

一方、日本の営業は新卒採用が主流で、固定給を支払いながらOJTで育成するスタイルです。このため企業側は「営業活動のプロセス管理」に重点を置き、朝から晩まで何をしていたかを把握しようとします。

しかし営業現場では、自由に動けることを魅力に感じる人も多く、行動管理が強化されると入力が形骸化したり抵抗感が生まれたりします。

その結果、「入力が進まない」「データが活用されない」という事態が発生し、せっかくのSFAが宝の持ち腐れになってしまうのです。

日本企業に必要なのは「営業管理ツール」ではなく「顧客情報蓄積ツール」

アメリカ型SFAは、営業担当者の行動管理よりも「見込み案件の進捗可視化」に重点があります。

アメリカ企業では「今月・来月・再来月にいくら売れるのか」という予測精度を高めるために情報が入力され、日報文化は存在しません。

一方、日本では長年「紙の日報」で営業活動を報告してきた歴史があり、SFAを導入しても日報のデジタル版として使ってしまうケースが多いのです。

これは大きな問題です。なぜなら、日報は営業担当者の努力をアピールするための資料になりがちで、顧客視点の情報が不足するからです。

本来、SFAに蓄積すべきは「営業担当者が何をしたか」ではなく、「顧客が何を求めているか」「顧客がどのような反応を示したか」です。

つまり、日報ではなく「次回提案計画」を入力させる運用に変えるべきです。

例えば「本日〇〇商事に訪問し、△△の提案を行った。顧客は□□に関心を示し、次回は来週××の提案を行う予定」といった情報です。

これなら蓄積されたデータがそのまま顧客データベースとなり、マーケティングや商品開発にも活用できます。

営業DXは営業部だけの課題ではなく「経営課題」である

多くの企業が営業DXを「営業部の業務効率化」と誤解しています。しかし本質的には、営業DXは経営全体のDXの起点です。

なぜなら、会社のあらゆる部門は顧客からの注文があって初めて価値を生み出せるからです。製造DXや経理DXも重要ですが、注文がなければ効率化しても意味がありません。

例えば製造現場の生産性を上げても、注文が20件しか入らなければ設備稼働率は低く利益も上がりません。逆に営業が受注を100件に増やし、それを製造現場に早く渡せれば、生産性は飛躍的に改善します。

営業DXの目的は、営業活動の見える化だけでなく、顧客情報やニーズを全社で共有し、商品開発や生産、物流まで一気通貫で最適化することにあります。

つまり、営業DXは営業部長や現場責任者の問題ではなく、経営案件として全社的に推進すべきものなのです。

日本型営業DXの第一歩は「商品力の強化」とセットで進めること

営業活動をデジタル化しても、売るべき商品やサービスに魅力がなければ成果は出ません。営業DXはあくまで「売れる仕組み」を作るための一部であり、商品力の強化と同時進行で行うべきです。

アメリカ式の営業コンサルティングは「100円のものを1万円で売れ」という極端な指導をすることもありますが、日本の中小企業がそれを真似すると短期的には売上が上がっても、長期的には信用を失いビジネスが続きません。

1万円で売りたいなら、1万円の価値がある商品・サービスを用意する必要があります。

そして、その価値を顧客に正しく伝える営業プロセスを設計し、SFAに蓄積された顧客データを基に改善していくことが、日本型営業DXの本質です。

営業担当者の役割は「売り込み」ではなく「顧客ニーズの収集」

アメリカではマーケティング部門と営業部門が明確に分かれており、営業はあくまで「クロージング(契約獲得)」が役割です。

しかし日本では、中小企業を中心に営業がマーケティングリサーチも兼ねており、顧客のニーズや課題を拾い上げる重要な役割を担っています。

したがって、日本の営業DXは単なる「営業活動の管理」ではなく、「顧客の声を社内に届ける仕組みづくり」であるべきです。

営業担当者が現場で得た情報をSFAに入力し、それがマーケティング・商品開発・製造に即座に反映される体制を構築すれば、売上も利益も持続的に成長します。

部分最適ではなく全体最適を目指す営業DX

日本企業がSFA導入で失敗する最大の原因は、「部分最適」に終始してしまうことです。営業部だけ、製造部だけ、経理部だけがDXを進めても、全体の成果は限定的です。

例えば経理業務をRPAで自動化しても、受注が増えなければ効果は限定的です。全社DXを成功させるためには、まず「売上を生む部門=営業」から着手し、顧客からの注文を最大化する仕組みを整えることが重要です。

そのための基盤としてSFAを活用し、顧客情報を全社で共有・活用できる体制を作ることが、DX成功のカギです。

まとめ:日本型営業DXは「顧客情報共有」と「商品力強化」の両輪で進める

SFAや営業支援ツールはあくまで手段であり、導入するだけでは成果は出ません。特に日本では、アメリカとは営業文化も雇用慣行も異なるため、単純な模倣では失敗します。

重要なのは、営業活動を「顧客起点」に切り替え、営業担当者が現場で得た情報を社内全体に循環させること。そして、その情報を基に商品力を高め、マーケティングから製造まで一貫して最適化することです。

営業DXは営業部の効率化プロジェクトではなく、経営レベルの変革です。

部分最適に陥らず、全体最適を目指す視点を持つことで、日本企業の営業DXは初めて本当の成果を生み出すことができるでしょう。

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