トップ営業を目指すなら会社目標にコミットするな?あきらめ上手になって成功する営業術/サイレントセールスの専門家 渡瀬謙 × BtoB売れる仕組みの専門家 村上智彦
「営業の仕事を続けていると、ふと“諦めたい”と思う瞬間はありませんか? “諦める”なんてネガティブな響きだと思われがちですが、実はそれがあなたを大きく成長させるきっかけになるとしたら――。もしも“諦める”という行為が、営業で結果を出すための意外な近道になるとしたら、どんな気持ちがしますか?
今回は、内向型営業の専門家、渡瀬謙さんの著書から『諦め上手』になるための考え方を紐解いてみたいと思います。最後まで読み終わったときには、きっと今までとは少し違った角度から“諦める”ことを捉え、あなた自身の営業スタイルを見直すヒントが見つかるはずです。」
「諦める」という言葉に潜むポジティブな力
営業の世界では「諦めるな」「根性でやり抜け」といった精神論が根強くあります。確かに、粘り強く努力を続けることは大切です。しかし、本書では「時には諦めることも大事」と説かれています。なぜなら、“諦める”という決断こそが、自分の得意なことや合う方法に集中し、成果につなげるための近道になるからです。
たとえば、「トーク力」や「プレゼンの上手さ」にひたすらこだわってしまうと、なかなか上達せず時間ばかりが過ぎてしまうことがあります。その結果、ほかの取り組みが後手になり、売上も伸び悩んでしまう。そんなとき、いったん「自分はプレゼン巧者にはなれないかもしれない」「上手にしゃべるのを目指すよりも、資料づくりやツールで補うほうが向いている」と“諦める”ことで、むしろ結果的に営業成績が上がるというケースもあるのです。
“諦める”というと聞こえは悪いですが、それは消極的な「放棄」ではなく、「自分に合わないやり方を無理に続けるのをやめる」という前向きな決断。自分が得意でないことを潔く諦めることで、得意な分野に集中できたり、クリエイティブな工夫を凝らす余裕が生まれたりします。それが結果として大きな成果につながるわけです。
会社の目標に「コミットしすぎない」という戦略
本書の中で印象的なのは、「会社からの目標数字にコミットしない」という考え方です。一見すると「営業失格」とも取られそうですが、ここで言う“コミットしない”とは「目標をまったく追わない」という意味ではありません。むしろ「なぜその目標設定なのか」「自分の扱う商品やサービスの特性、営業スタイルと整合性があるのか」をしっかり考えたうえで、“自分のペースを大切にする”という意味に近いのです。
会社が出す売上目標は、多くの場合「短期的なノルマ」として設定されます。しかし、商品によっては即決が難しく、見込み客と信頼関係をじっくり築くことが重要な場合もあります。そうした商品を扱っているなら、まずは目の前の月次目標にしばられすぎず、「3か月後」「半年後」の成果につながる種まきに集中したほうが結果的に大きな売上を生むこともあるのです。
もちろん、会社が設定する目標はまったく無視できるわけではありません。しかし「今月どうしても達成しろ」と迫られても、それが商品やサービスの特性とあまりに合っていないなら、自分なりの長期ビジョンを描くべきです。短期的なノルマに振り回されるよりも、最終的に一年度や半期で帳尻を合わせ、顧客満足度が高い取引を数多く生み出すことが、長期的には会社にも大きく貢献するからです。
上司の指示を「絶対」と思わない
同じような発想で、「上司の指示は絶対」「会社の方針に逆らわないのが正しいビジネスパーソン」と捉えがちな人も多いかもしれません。しかし、本書では「上司や会社の指示を鵜呑みにせず、取捨選択することも時には大切」と語られています。
たとえば「1日に名刺を10枚もらってこい」という指示を受けたら、まずはなぜそれが必要なのかを考えてみるのです。新規開拓で名刺を集める意義があるなら素直に従うべきですが、すでに大口取引が決まりかけていて、そのフォローに専念したほうが結果的に売上が伸びるのであれば、そちらを優先するのも選択肢です。
もちろん、指示に従わないことで一時的に上司の心証が悪くなることもあるでしょう。しかし、「なぜこの行動が最善と考えたのか」を筋道立てて説明し、実際に成果を上げれば、最終的には理解を得られやすくなります。会社は「指示に従う人」を求めるのではなく、「売上を伸ばす人」「成果を出す人」を求めているからです。
「成功者のマニュアル」を丸暗記しなくてもいい
営業の世界では「売れている人の真似をしろ」とよく言われます。確かに、成功者のノウハウを学ぶことは大事な第一歩です。しかし、それをそのまま使ったからといって、誰もが同じ成果を得られるわけではありません。人には性格や話し方、得意分野の違いがあるからです。
本書では、マニュアルやロープレの台本、先輩営業マンのトーク例などを“まずは試してみる”ことを推奨していますが、その先にあるのは「自分流に改良していく」こと。たとえトップセールスの台本を暗記しても、自分が心から納得していない言葉では、お客さまの心には響きにくいでしょう。
「自分が言いやすい表現か」「無理なく説明できているか」「お客さまの反応を見ながら臨機応変に変えられるか」。こういった点を意識して、自分なりに手を加えて初めて、“自分の武器”として使えるようになるのです。営業においては、他人と同じ道を辿るよりも、まずは真似して試してみたうえで“諦める”部分と“伸ばす”部分をうまく振り分けることが大切と言えます。
周りとの「競争」にこだわりすぎない
営業の世界は成績が数字で見える分、どうしても同僚や他社の営業マンとの“競争”を意識しがちです。もちろん、競争がモチベーションにつながるタイプの人には効果的でしょう。一方で、競争を煽る社風のなかでギスギスした雰囲気になり、人間関係が悪化してしまうケースも珍しくありません。
本書では、「数字を競い合うよりも、お互いにノウハウや情報をシェアして全体を底上げしたほうが結果的には自分も成長できる」という指摘がなされています。実際に、営業会議の場で「こうしたらうまくいったよ」とノウハウを共有し合う風土がある会社ほど、部署全体の売上が安定して高くなる傾向があるようです。
もし今いる職場が足の引っ張り合いばかりの環境だと感じるなら、思い切って環境を“諦めて”変えてみるのも1つの手です。単に逃げ出すのではなく、「自分が高め合える仲間がいる場所を選ぶ」という積極的な意思決定と捉えると、次の環境で飛躍できる可能性が広がります。
「サボる」ことも戦略の一部
もう1つ、本書で強調されているのが「うまく力を抜く」ことの重要性です。特に、ある程度実績を出して会社から認められるようになったあとであれば、意図的に休む時間をとり、リフレッシュすることが売上アップにつながることもあります。
営業はときに、連日8~10時間以上の稼働が続いたり、週末も取引先からの連絡に対応したりと、心身への負担が大きい職種です。そこに加えて「今月もノルマを追いかけなきゃ」というプレッシャーが重なると、どこかで限界を迎えてしまいかねません。だからこそ、本書では「力を抜く」「上手にサボる」ための方法を自分なりに確立することが推奨されています。
たとえば、毎日出社してからすぐに外回りに出て、昼休憩の合間に自分だけのゆったりとした時間を作る。あるいは、実績を残した翌週には少しスケジュールを調整して気分転換の機会を設ける。こうした些細な“サボり”が、結果的にメンタルの安定や新しいアイデアの創出につながるのです。もちろん、まったく成果を出せていない時期に「サボる」のはただの怠慢とみなされる可能性が高いので、まずはしっかり結果を出すための仕組みづくりが必要にはなるでしょう。
「内向型」だからこそ営業が向いている?
本書では意外な視点として、「内向型の人ほど実は営業に向いている」という話も出てきます。周囲の目を気にしやすい人や、大勢の中で目立つのが苦手な人こそ、営業の“自由度”を活かせるというのです。
営業職は外回りや訪問、テレワークでの商談など、自分の裁量でスケジュールを組みやすい仕事でもあります。ずっとオフィスに座って雑談や人間関係に気を遣わなければならない環境よりも、一人で顧客対応の段取りや資料作成に集中したほうが気が楽な場合もあります。さらに、自分なりのペースで移動し、お客さまと一対一でじっくり話すほうが得意という内向型の人も少なくありません。
自分に合わない組織や営業スタイルを“諦める”という決断をして、より自分の特性に合った環境に身を置けば、想像以上の成果を出せる可能性があります。
まとめ:諦める=自分の道を切り拓く
“諦める”というと、どうしても「根性が足りない」「途中放棄」といったネガティブなイメージが先行しがちです。しかし、本書で語られる「諦め上手になる」ための考え方は、決して投げやりな放棄ではなく、「自分の強みや特性に合わないものを切り捨て、合うやり方に集中する」ための思い切った戦略です。
会社や上司の指示を闇雲に受け入れて疲弊するより、自分のスタイルで着実に成果を出す道を探す。トップセールスのやり方をまるごと模倣するより、自分ならではのトークやツールを生み出す。短期ノルマに追われて右往左往するより、長期的な視点で顧客との関係を深める。こうした選択の背景には「諦め」というポジティブな決断があるのです。
営業で上を目指すなら、むしろ「諦める」という行為を恐れないこと。ときには現状のやり方や環境を諦めることで、より自分が輝ける場所と方法を見つけ出すことができるかもしれません。あなたも一度、“諦める”ことがもたらすメリットに目を向けてみてはいかがでしょうか。やがてそれが、想像以上の結果を引き寄せるカギになるはずです。