今まで教わった即決営業のクロージングトークは、ぜんぶ忘れてください/サイレントセールスの専門家 渡瀬謙氏 × BtoB売れる仕組みの専門家 村上智彦
今まで「即決営業」を叩き込まれてきた方の多くは、クロージングといえば「反論にどう切り返すか」「断るお客様をいかに逃がさないか」という“攻め”のイメージを持っていることでしょう。しかし、本当に大切なのは、相手に圧をかけて決断を迫ることではなく、「お客様自身が納得して、自発的に購入を決めるまでのハードルをいかに下げてあげるか」という視点です。
そこで注目されるのが、元リクルートで半年間営業成績ゼロから全国トップに上り詰め、独自の内向型営業メソッド「サイレントセールス」を確立した渡瀬謙氏の考え方です。本記事では、いわゆる“ゴリ押しトーク”を封印しつつも、しっかり成果を生むクロージング技術の要点をお伝えします。
多くの営業現場でよく聞かれる反論や質問は、実際にはある程度パターン化されています。たとえば「値段が高い」「本当に効果があるのか」「隣の会社が導入したらうちも考える」「予算がない」「検討します」などが代表的ですが、これらは単純に“NO”を突きつけているわけではありません。大半の場合、「導入したい気持ちがゼロではないが、今ひとつ踏み切れない理由」が存在するのです。ここを明確にし、解消をサポートするのが本来のクロージングの役割といえます。
サイレントセールスの特徴は、相手を言い負かすような切り返しトークではなく、「相手が迷っているポイントを一緒に解消していく」ことにあります。たとえば商談時、お客様の反応を以下の3つに分けて考えます。
- 丸(即決)
これはもう「いいね、欲しい!」とすぐに購入を決める層。特別な説得は不要で、むしろ余計な一言で不安を煽らないようにすることが大切です。 - バツ(不要)
商品やサービス自体にニーズがなく、購入検討の土俵にすら上がっていない層。ここは追いかけても時間と労力の無駄になりがちなので、執着しすぎないのが得策です。 - 三角(迷い)
「いいね」と思ってはいるものの、何らかの理由で踏み切れない人たち。実はこの層がいちばん多く、かつ本気で悩んでいるからこそ、一歩背中を押してあげれば前向きに導入してくれる可能性が高いのです。
従来のクロージングでは、この三角の人を「ほぼバツ」に分類しがちで、強引な切り返しトークでなんとか引き留めようとするケースが多く見られます。しかし、相手を追い込むようにして“YES”をもらっても、その後にクレームやキャンセルにつながるリスクがあります。サイレントセールスでは、無理やり「今すぐ買ってください」と畳みかけるのではなく、「迷いが生じる原因を、お客様と一緒に解決し、自然に導入へ至ること」を目指します。
値段が高いと感じられてしまう場合
「高い」と言われる原因は、お客様のなかで「価格の妥当性がイメージできていない」ことがほとんどです。口先だけで「コストがかかっていて…」などと言い訳を並べても、お客様は納得しづらいでしょう。
ここで効いてくるのが事例です。似たような規模・業種・地域の他社が導入して得られた成果を共有することで、「その価格は十分ペイできる」「むしろ安い投資だった」というイメージを持ってもらえます。サイレントセールスの肝は、“お客様の頭の中で勝手に導入後の姿を想像してもらう”ことにあります。
たとえば広告商品の場合、実際に同業種が導入し、どんな人材を採用できたのか、その採用によってどんな業績アップがあったのかを具体的に示せば、「ただ高いだけの広告費」ではなく「成長への投資」として捉えてもらいやすくなるのです。
効果が本当にあるのか疑われる場合
「効果があるの?」という疑問には、やはり事例とデータが有効です。どのくらいの導入件数があり、平均して何%程度の成果が出ているのか。実際に半年後・1年後にどんな変化が見られたのか。数字や具体的ストーリーで示すほど説得力が増します。
ここで重要なのは、「うまくいった事例」だけでなく、いったん失敗や伸び悩みがあったが、追加サポートや調整で盛り返した事例も用意することです。これにより、「導入後のフォローも含めて一緒に成果を出すんだ」という姿勢が伝わりますし、「買って終わり」にしないスタンスがお客様の安心感につながります。
隣の会社が導入したらうちもやる、という場合
競合や隣の企業など、周囲の動向を見ながら「様子を見たい」というケースは少なくありません。これは興味はあるものの、自社が導入の“第一号”になることに抵抗があるためです。言い換えれば、「すでに実績があるなら取り組みたいけど、誰もやってないうちは不安」という心理が働いています。
このときも有効なのはやはり事例。もし同じ業界で導入実績があるなら、「御社に近い条件で成功した事例」を個別に見せるのが効果的です。もしまったく同業がいない場合、規模やエリアが似た別業種の成功体験を提示したり、「先行導入企業への追加インタビューを取り次ぐ」など、検討者が踏ん切りをつけられる材料を用意することが大切です。
予算がない・検討したいと言われたとき
「予算がない」「検討します」は、真っ向から断られているわけではなく、むしろ「興味はあるが、導入するメリットが予算を上回っているか確信がない」状態だと捉えましょう。サイレントセールスでは、ここでも無理にゴリ押しせず、相手の“迷い”の正体にアプローチします。
たとえば「検討します」と言われたら、すぐに「いつ決めていただけますか?」と迫るのではなく、なぜ検討期間が必要なのか、どんな情報が不足しているのかを確認します。お客様の組織内で承認フローが長い場合もあれば、単に類似商品の相見積を取りたいだけの場合もあるでしょう。そうした事情を理解し、後押しになる情報を追加で提供することで、検討を早めてもらうことが可能です。
「予算がない」という場合は、「本当に予算がないのか」「予算を割いてまで導入する価値を感じてもらえていないのか」を切り分ける必要があります。後者なら、やはり事例や成功パターンを提示して、「実はこの費用でここまでできるなら安いものだ」と思っていただくように導くのが王道です。
クロージングは相手を打ち負かす場ではなく、「迷い」を解消してあげる場
一般的な営業テクニックでは、クロージングは「反論を切り返して相手を言い負かす」かのように扱われがちです。しかし、サイレントセールスが提唱するのは、「迷っている人(=三角)に対して、迷いの要因を取り除くサポートをする」というアプローチ。口先だけの切り返しではなく、実際の事例・データ・フォロー体制などの“準備”を徹底することで、お客様に「ここまでしてくれるなら導入してみようか」という安心感と納得感を提供します。
渡瀬氏が強調するのは、「三角を“バツ”とひとまとめにしない」という考え方です。「高い」「よく分からない」「効果が不安」といった声は、裏を返せば「もしこれが解決できるなら導入したい」という表れでもあります。ですから、強引なクロージングトークよりも、事前の準備や事例収集、導入後フォローの見える化などの“仕組みづくり”に時間とエネルギーを割くべきなのです。
事例を収集・活用する習慣こそが“喋らなくても売れる”鍵
サイレントセールスにおいては、「口達者である必要はない」とよく言われます。実際、渡瀬氏自身も自分を内向型だと公言していますが、強いトークスキルを振りかざす代わりに、「お客様と似た条件・規模・課題を抱えていた企業で、どんな成果が出ているか」を丁寧に伝えることを重視してきました。
たとえば広告を提案する際、単に「1ページプランでいくらです」と言うのではなく、「過去に同業種の企業が4週連続掲載していた結果、理想に近い人材を採用できた」という事例を用意し、お客様に「投資のリターン」を具体的にイメージしてもらうわけです。それこそが、「値下げ交渉をされるどころか、むしろより高額プランでも納得してもらえた」成功体験につながります。
このように、「お客様の成果を最優先に考える→必要な情報や事例を収集する→常にアップデートしながら次のお客様に還元する」というサイクルを回す営業スタイルなら、お客様との関係は自然と深まっていきます。力技の即決営業に頼らなくても、タイミングが来たときにスムーズに「やっぱり御社にお願いしたい」と声をかけてもらえるようになるのです。
まとめ:圧力をかけずに“勝手に売れる”仕組みを作ろう
クロージングを考えるとき、多くの営業パーソンが「どう説得すればいいか」「どんな切り返しトークで反論を封じ込めるか」に意識を向けがちです。しかし、渡瀬謙氏が提唱するサイレントセールスでは、クロージングは“口先の強さ”ではなく“準備の深さ”で決まるといえます。
- お客様の迷いがどこから来ているのかを把握し、そこを解消する事例・データを提供する。
- 強引に迫らず、あくまでもお客様自身がメリットをイメージできるように導いてあげる。
- 一度導入していただいたお客様の結果をきちんと追跡し、新たな事例を積み重ねることで説得力を増していく。
このプロセスを着実に続けていけば、口下手な人でも大きな成果を出せるようになるでしょう。無理やり「いますぐ決めてください」と迫るやり方は、たとえ一時的に契約を取れても、長続きしません。真のトップセールスは、言葉数が少なくても、お客様が「自分にメリットがある」と心から納得できる環境を整えています。
もしあなたが、「もっとクロージングがうまくなりたい」「即決を迫るトークに疲弊している」という悩みを抱えているのなら、ぜひ渡瀬氏のサイレントセールスの考え方を試してみてください。話術より事実。強引な押しより安心感。これらが合わさることで、「喋らなくても勝手に売れる」クロージングが自然に実現していくはずです。