営業で絶対に使ってはいけない言葉と成約率を高める会話術/有限会社ピクトワークス 代表取締役 渡瀬謙
営業という仕事は、商品やサービスの魅力を伝えるだけでなく、お客様の信頼を得て「話を聞きたい」「買いたい」と思ってもらうことがすべてです。
しかし、実は多くの営業パーソンが無意識のうちに、お客様の心を遠ざける言葉を口にしてしまっています。
今回は、元リクルートで半年間売上ゼロから全国トップセールスへと駆け上がり、独自の「サイレントセールス」で500社・2,000名以上の営業指導を行ってきた渡瀬謙先生の経験をもとに、営業現場で避けるべきNGワードと、その代わりに成約率を高める効果的な言葉の使い方をご紹介します。
これを知っているかどうかで、営業の結果は大きく変わります。
「社長はいらっしゃいますか?」は営業拒否のサインを招く
飛び込み営業やテレアポでつい使ってしまいがちなフレーズが、「社長はいらっしゃいますか?」です。受付や電話口でこれを聞くと、たとえ社長が社内にいても「いません」と返されることがほとんどです。
理由は単純で、相手からすれば「初対面の営業担当にいきなり時間を取られる理由がない」からです。営業初心者はこの言葉を当然の入口として使ってしまいますが、トップセールスは一発で会おうとしません。
渡瀬先生が提案するのは、まず会うことを目的にしないアプローチです。最初は「資料だけお渡しして帰る」。
受付の方に「社長がいらっしゃったらお渡しください」と言って帰ることで、相手に断る負担をかけず、何度か顔を出すうちに「この人は何度も来てくれる」「感じが良い」と受付の方との関係性ができていきます。
3〜4回目には「今なら社長いますよ」と向こうから声をかけてもらえることもあります。営業は一度の訪問で結果を出すより、信頼を積み重ねることが成約率アップにつながります。
「何かありましたらご連絡ください」では連絡は来ない
商談や雑談の最後に「また何かありましたらご連絡ください」と言ってしまう営業パーソンは多いですが、これではまず連絡は来ません。
理由は、この言葉があまりにも漠然としていて、相手が「どんな時に連絡すればいいか」が明確にならないからです。トップセールスはここを具体的にします。
たとえば、機械工具商社であれば「特にネジの種類なら業界トップクラスです。ネジでお困りのことがあればお声がけください」と伝えます。
これにより、お客様の記憶に「ネジならこの人」という印象が残ります。営業では「自分が何の専門家なのか」を一点に絞って伝えることで、最初の取引のきっかけをつくりやすくなります。
広く浅くではなく、まずは一点突破で信頼を得ることが重要です。
「この先ご購入予定はありますか?」より過去の話を聞く
クロージングで「この先ご購入予定はありますか?」と聞く営業は少なくありませんが、これは逃げの質問です。
多くの場合、相手は「今はない」と答えるか、買う気があっても「売り込みを受けたくない」心理から予定を濁します。
渡瀬先生が勧めるのは、未来ではなく過去から話を引き出す方法です。
たとえばパソコンを提案するなら、「今のパソコンはどれくらい使っていますか?」と聞く。
さらに「前回買い替えたきっかけは?」と掘り下げると、「画質が悪くなった」「動作が遅くなった」など、買い替えの動機が見えてきます。
そこから「カメラ性能が気になるなら、最新機種は改善されています」と自然に提案につなげられます。
お客様が重視するポイントを過去の経験から引き出すことで、「そろそろ買い替え時かもしれない」という気持ちを自ら持ってもらえるのです。
「高くなってしまうんですよ」ではなく価値を伝える
価格を指摘されたときに「原材料が高いから」「手間がかかるから」と説明してしまうと、相手には「やっぱり高い」という印象だけが残ります。
トップセールスは価格の理由ではなく、その商品・サービスがもたらす価値を語ります。
たとえば求人広告で100万円という価格を提示されたとき、営業は「この広告で優秀な人材が採用できれば、売上が何倍にもなる可能性がある」と未来の利益を具体的にイメージさせます。
価格の話になったら、金額の根拠を説明するのではなく「この投資がどんな成果を生むのか」を一緒に描く。
価値ベースの会話にシフトすることで、価格競争から抜け出し、納得感を持って契約してもらえるようになります。
A案B案に「買わない」C案を加えて心理的負担を減らす
「A案とB案どちらにしますか?」という二択は、一見クロージングのテクニックに見えますが、まだ決める準備ができていないお客様にとってはプレッシャーです。
結果として、どちらを選ぶかではなく「どう断ろうか」を考え始めてしまいます。
そこで渡瀬先生は、A案・B案に加えて「買わないC案」も提示します。「どちらも選ばないのも自由です」と伝えることで、お客様は安心して商品の質問や比較に集中できるようになります。
断れる前提があると、人はかえって真剣に検討する心理が働きます。この方法はクロージングの空気を柔らかくし、商談の質を高めます。
営業トークはお客様目線がすべて
これらのNGワードに共通する問題は、営業側の都合や売上に意識が偏っている点です。
お客様は「自分にとっての利益」を基準に話を聞きます。相手が得をする未来を描き、そのための選択肢を提示する言葉は、多少きつくても受け入れられます。
一方、売り手側の都合が透けて見える言葉は、反射的に拒否されます。
営業の会話術で大切なのは「自分が言いたいこと」ではなく、「お客様がどう受け止めるか」を常に意識することです。
この視点を持てば、自分でも使っているフレーズの中から改善すべきものを見つけ出し、よりお客様に届く言葉へと磨き上げることができます。