世界で稼ぐ会社を作るための外国籍人材採用戦略/株式会社foredge 代表取締役 古賀利幸
日本企業がグローバル市場で競争力を持ち続けるためには、優秀な外国人人材の活用は避けて通れないテーマになっています。
しかし現実には、多くの企業が「日本語能力を重視しすぎる」「低賃金労働力としてしか見ない」といった古い採用観から抜け出せず、せっかくの海外人材を十分に活かせていません。
これは単に労働力不足を補うだけではなく、事業の成長速度や市場拡大戦略にも直結する重要なテーマです。
なぜ日本語能力を必須条件にしてはいけないのか、なぜ低賃金前提での採用は危険なのか、そしてなぜ亀田製菓やソフトバンクがインド人をトップポジションに据えるような大胆な決断をするのか。
本稿では、上場企業から中小企業まで100社以上の外国人人材採用を支援してきた専門家の知見をもとに、その理由と具体的な戦略を解説します。
日本語能力を採用条件にしてはいけない理由
多くの日本企業が外国人採用に踏み切る際、最初に設ける条件のひとつが「日常会話レベル以上の日本語能力」です。しかし、これは優秀な人材を逃す大きな原因になっています。
理由はシンプルで、日本語能力と業務遂行能力は必ずしも比例しないからです。
グローバル市場で活躍している人材の多くは、専門性や経験、課題解決能力、リーダーシップなどに秀でていますが、日本語はこれまで必要なかったため話せない場合が多いのです。
翻訳ツールや多言語マニュアルの普及により、言語の壁は過去に比べ大きく低下しています。
それでも日本語必須とすると、採用対象が極端に狭まり、本来求めるべきスキルやマインドを持った人材を採り逃すことになります。
実際に現地で採用して日本に呼び寄せたものの、「思ったより日本語が話せない」という理由で早期離職させてしまうケースもありますが、これは採用段階での期待値設定の誤りによるものです。
重要なのは「どのような成果を期待して採用するのか」を明確にし、必要に応じて言語サポートや受け入れ体制を整えることです。
外国人を低賃金労働力とみなす危険性
外国人人材を単なる低賃金労働力としてしか見ない採用は、短期的には人手不足の穴埋めになるかもしれませんが、長期的には企業ブランドの毀損や定着率低下を招きます。
そもそも、低賃金を理由に日本を選ぶ優秀な人材はほとんど存在しません。
現在の外国人人材市場は、世界中で優秀層の争奪戦が繰り広げられており、条件や環境の魅力がなければすぐに他国や他社へ流れてしまいます。
また、低賃金前提の採用では、企業側がその人材を戦略的に活用する発想が乏しくなり、単純作業への固定化や成長機会の不足を招きます。
結果として、採用コストと教育コストだけがかかり、期待した成果が出ないまま離職につながります。
成功する企業は、外国人を「コスト削減の手段」ではなく「事業成長のパートナー」として位置づけ、適正な報酬とキャリア機会を用意しています。
グローバル採用は「誰を採るか」より「どう活躍してもらうか」
外国人人材採用を成功させる企業は、「誰を採るか」よりも「どのような成果を期待し、そのためにどう活躍してもらうか」を明確にしています。
例えば、地方工場で日本人採用が難しくなった場合、単に人手を補うために外国人を採用するのではなく、長期的に地域に根ざし、安定的に勤務できる特性を持った人材を選びます。
また、海外展開を見据える企業であれば、その国の市場や文化に精通し、現地で事業を拡大できるスキルセットを持った人材を採用します。
この発想の転換がないまま「外国人採用だから特別な対応が必要」と構えてしまうと、本質的な成果にはつながりません。
現地採用と受け入れ体制の重要性
海外現地で人材を採用する場合、その後日本に呼び寄せて働いてもらうのか、現地でそのまま活躍してもらうのかによって必要な条件やサポートは異なります。
現地採用で失敗する典型例は、日本で働く前提で採用したのに、受け入れ側が「日本語堪能な外国人」を想定してしまうパターンです。
結果として、実際に来日した人材が日本語を十分に話せず、業務評価以前に「コミュニケーションが取れない」という理由で早期離職してしまうことがあります。
これを防ぐには、採用前に業務内容や必要スキル、コミュニケーション手段、サポート体制を具体的に設計し、現地でも日本でも同じ基準で評価できる環境を整える必要があります。
国籍ではなく市場適合性で選ぶ
亀田製菓がインド市場拡大に向けてインド人CEOを任命した例や、ソフトバンクが海外市場ごとに現地のトップ人材を高待遇で採用する事例は、国籍ではなく市場適合性で人材を選ぶ好例です。
海外展開においては、日本で成功したやり方をそのまま持ち込んでも通用しない場合が多く、現地の市場環境、顧客特性、競合状況に応じた戦略が必要です。
そのためには、現地の文化やビジネス慣習を深く理解し、迅速に意思決定できる現地出身のリーダーを登用することが有効です。
これは単に現地語が話せるからという理由ではなく、その市場で成功するために必要なスキルと経験を持っているからこそ選ばれるのです。
テクノロジーが変える外国人採用の常識
かつては外国人採用において最大の障壁とされた「言語の壁」も、翻訳ツールや自動通訳システム、クラウドベースのマニュアル管理などDXの進展により急速に低下しています。
これにより、日本人管理者が日本語で指示を出さなければ仕事が進まない状況は減りつつあります。
むしろ、特定のスキルや役割においては、日本人よりも外国人人材の方が市場価値や実績を持っているケースも増えています。
企業が本当に求めるべきは「国籍に依存しない成果創出能力」であり、それを最大化するための環境設計とテクノロジー活用です。
まとめ:外国人人材採用は成長戦略の一部
外国人人材採用は、単なる人手不足解消策ではなく、企業の成長戦略そのものです。
日本語能力や低賃金といった従来の採用基準に縛られず、市場適合性や専門性、成長への貢献度で人材を評価することが重要です。
受け入れ体制の整備、テクノロジーの活用、現地市場への理解が揃えば、外国人人材は企業の競争力を飛躍的に高める存在になります。
グローバル市場で稼ぐ会社を目指すなら、今こそ採用の常識をアップデートし、国籍ではなく能力と成果で人材を選ぶ時代へと舵を切るべきです。