営業成績を伸ばすための「諦める技術」とは/有限会社ピクトワークス 代表取締役 渡瀬謙

営業職といえば、「諦めない姿勢」が美徳とされる世界です。上司からも「最後までやり抜け」「粘り強く頑張れ」と言われ、諦めることはネガティブな意味で捉えられがちです。

しかし、実際の現場で成果を出している営業パーソンは、むしろ“上手に諦めている”ことが少なくありません。

ここでいう諦めとは、投げ出すことではなく、「自分に合わない方法や非効率なやり方を手放し、より成果に直結するやり方へシフトする判断力」を意味します。

営業の現場は常に変化し、成果の出るやり方は人によって違います。同じ山頂を目指すにも、険しい直登ルートが合う人もいれば、時間をかけて迂回路を行くほうが成果につながる人もいます。

大切なのは、自分に合わない登り方を無理に続けないこと。自分の強みを活かすルートに早く切り替えることこそが、長期的な営業成績の安定につながります。

話し上手を諦めたことで成果が出た経験

営業職に就いた当初、多くの人は「顧客との会話を盛り上げられるトーク力が必須」だと考えます。しかし中には、人を笑わせたり場を盛り上げたりすることが苦手なタイプもいます。

渡瀬先生自身もリクルート時代、周囲の饒舌な同僚と自分を比べて落ち込んでいました。本を読んだり練習したりしましたが、どうしても人を惹きつける雑談や即興トークは得意になれませんでした。

そこで発想を切り替え、「話し上手を諦める」ことにしました。

代わりに選んだのは、伝えたい内容を紙1枚や資料に落とし込み、誰が見てもわかる形にして渡す方法です。

商品の魅力やメリットを口頭で長々と説明する代わりに、ビジュアルや箇条書きでまとめた資料を提示すると、顧客は自分のペースで理解でき、説得力も増しました。

この経験から、「不得意分野を無理に伸ばすより、得意な形に変換して成果を出す」ことの大切さを学びました。

目標数字へのこだわりを手放す判断

営業職には必ず「今月の目標数字」が設定されます。達成すれば評価や報酬に直結するため、多くの人は短期的な数字にとらわれます。しかし、全ての商品やサービスが短期間で売れるわけではありません。

契約まで数ヶ月かかる案件や、慎重な検討が必要な高額商材もあります。そうした場合、今月の数字に固執すると、焦って無理な営業をして顧客との関係を損ねることがあります。

渡瀬先生が意識していたのは、「月単位ではなく年単位での数字達成」です。今月は種まきに専念し、3ヶ月後・半年後に成果が出る行動を優先する。

この考え方を持つことで、短期的なプレッシャーから解放され、顧客とじっくり信頼関係を築けるようになりました。

もちろん会社によっては許されないスタイルかもしれませんが、長期的な成果を求める営業にとっては有効な戦略です。

上司や会社の指示を鵜呑みにしない柔軟さ

「1日10枚名刺を集めてこい」というような上司の指示を、素直に守ることは一見正しい行動に見えます。しかし、その行動が必ずしも売上に直結するとは限りません。

新規顧客との名刺交換より、既存顧客への深いアプローチのほうが契約に結びつくケースも多いのです。

もちろん最初は会社の方針に従うべきですが、やってみて効果が薄いと感じたら、自分で判断して動く必要があります。

「成果につながらない指示は取捨選択する」という姿勢は、自己責任とセットで持つべき営業スキルです。

トップセールスの完全コピーを諦める

営業現場では「売れている人の真似をしろ」とよく言われます。確かに、成功している人のやり方を試すことは重要です。

しかし、トップセールスのトークや営業スタイルを丸ごとコピーしても、同じ結果が出るとは限りません。相手の性格や人間関係、顧客層によって効果が変わるからです。

大切なのは、真似したうえで自分なりの言い回しや手順にアレンジすること。自分のキャラクターや得意分野に合わせて調整すれば、自然体で成果を出せる営業スタイルが構築できます。

勝ち負けへの執着を捨てる

営業成績を競う社風の会社では、同僚との勝ち負けにこだわるあまり、社内の空気がギスギスすることがあります。成績上位者を蹴落とすような行動が増えると、チーム全体の士気も下がります。

渡瀬先生がいた環境では、むしろ成果の出た方法を共有し、全員で売上を底上げする文化がありました。結果としてチーム全体が成績を伸ばし、個人の評価も上がりました。

もし今いる環境が足を引っ張り合うような職場であれば、その環境自体を諦めて、互いに高め合える場所を探すことも選択肢です。

自分に合わない営業スタイルを見極める

営業職といっても、提案型、訪問販売、インサイドセールス、既存フォロー型など、種類は多岐にわたります。自分が成果を出せるスタイルと出せないスタイルを早く見極めることが重要です。

「合わない」と感じたら、転職や部署異動を視野に入れるのも戦略の一つです。同じ営業職でも、業界や商品、顧客層が変われば、自分の強みを活かせるフィールドが見つかる可能性は高まります。

力を抜くポイントをつくる

営業職は常に全力疾走では続きません。特に成果を出している営業ほど、力を抜くタイミングを知っています。

必要なのは、手を抜くのではなく「バランスを取るための休息」です。

内向型の営業パーソンにとっては、社内の雑音や人間関係よりも、外で一人で動ける時間のほうが集中力を保ちやすい場合もあります。

自分なりのストレスコントロール法を持ち、長期的に走り続けられる体制を整えることが、営業の継続力を高めます。

「諦める」は逃げではなく戦略

営業で成果を出すために必要なのは、全てを抱え込む根性論ではありません。自分に合わないやり方や環境を諦めることは、むしろ戦略的な選択です。

不得意分野を無理に克服しようとせず、得意分野に集中することで成果が加速します。

そして、短期的な数字よりも中長期の成果を見据えた行動、指示やマニュアルを自分なりに最適化する姿勢、環境選びの柔軟性が、営業成績を安定的に伸ばすカギとなります。

「諦める技術」を身につければ、営業職はもっと自由で、自分らしく成果を出せる仕事になります。

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