どん底から年商2億5000万円エステサロンを築いた成功の秘密/レイティスペリテ代表 安部文博

「自分が現場に入らなくても売上が落ちないサロン」をつくるにはどうすればいいのでしょうか。

華やかに見えるエステ業界の裏には、集客・人材・信頼・仕組みづくりという地道な課題が横たわっています。

今回お話を伺ったのは、女性専用のトータルエステティックサロン「サンパティック」を運営するレイティスペリテ株式会社の安部社長です。

エステ業界との出会いは「偶然の一言」から

安部さんのキャリアの始まりは、実はまったく異なる業界にありました。

「もともとは節税対策のマンション販売をしていました。全国のお医者さんや高額所得者の方に電話営業をして、節税目的の物件を提案していたんです。」

そんな中、顧客のひとりから「アメリカから機能性補正下着が入ってくるから、営業を手伝ってほしい」と声をかけられたのが、美容業界との最初の接点でした。

「最初は“なんだそれ?”という感じでした。でも実際に紹介して回るうちに、エステサロンのオーナーさんたちがどれだけ“美と健康”に情熱を持っているかを知って、衝撃を受けました。お客様も本気でお金を使う。『これは大きな可能性がある業界だ』と感じたんです。」

資格や免許が必要な業種ではなく、誰もが挑戦できる世界。安部さんは迷わずこの業界に飛び込みました。

「一軒家サロン」という発想の原点

現在、レイティスペリテが展開するサロンは「一軒家丸ごとエステ」というユニークなスタイルで知られています。

「最初は雑居ビルの一室から始めました。でも差別化したかったんです。海外、特にフランスなどでは“エステ=一軒家”がスタンダードなんですね。お客様にとって特別な空間をつくるには、それが一番いいと感じたんです。」

物件探しは苦労したが、家主に「エステなら綺麗に使ってくれるだろう」と信頼され、思い切って一軒家を借りることに。

結果は大成功。落ち着いた雰囲気と高いプライバシー性が顧客から評価され、サロンはたちまち人気を集めました。

「最初は勇気がいりました。でも結果的には、単価も上がり、リピーター率も向上。家賃の高さを補って余りある効果でした。」

信頼していた店長にお金を使い込まれた日

順風満帆に見える経営にも、暗闇の時期がありました。

「一番つらかったのは、信用していた店長にお金を使い込まれたことです。」

通帳を預けて店舗運営を任せていたが、ある日突然、金額の不整合が発覚。問い詰めると「盗まれた」と言い訳を繰り返したが、結局は本人による使い込みでした。

「完全に信用していました。だからこそ裏切られたショックが大きかった。でも、すぐに“自分の責任”だと考えるようにしました。」

安部さんは「人を責めても仕方ない。仕組みが悪い」と割り切ったのです。

預けっぱなしの管理体制を改め、チェックフローを作り、担当を分散。人の誠実さに頼るのではなく、ルールに守られる経営体制を整えました。

「どんなに努力しても、仕組みがなければ崩壊する。あの事件は、今思えば大きな転機でした。」

チーム経営の極意:「個人」ではなく「連携」で売上をつくる

エステサロンという業種では、「売上=施術者の個人スキル」というイメージが強いでしょう。

しかし安部さんは、“チームで売上をつくる仕組み”を徹底しています。

「セールスが得意な人もいれば、フォローが得意な人もいます。だからこそ、得意分野を活かすチーム連携が大事なんです。」

たとえば、施術90分の中で「初回カウンセリング」「施術中のフォロー」「クロージング」をそれぞれ適任者が担当。一人が全部やるのではなく、複数のスタッフが連携して1人のお客様をサポートするのです。

「入り口は得意な人が担当し、施術中の会話は別のスタッフ、クロージングは販売に強い人が引き継ぐ。これで契約率も顧客満足度も上がりました。」

さらにチーム売上を重視する文化も根付かせました。

「個人ノルマにこだわると、誰かが数字を落とした時にギスギスする。でも“チーム全体で達成”を目標にすると、自然と助け合いが生まれるんです。結果的にお客様の満足度も上がる。」

スタッフが“辞めない組織”をつくる面談術

多くのサロンオーナーが悩む「スタッフが定着しない」問題。安部さんのサロンでは、10年以上勤続する社員も多い。その秘訣は、“人生の目標”に寄り添う姿勢にあります。

「まず、入社時に2時間かけて面談します。その人がどんな人生を送りたいのか、どんな夢があるのかを聞くんです。」

「独立したい」「社内でキャリアアップしたい」「40歳までに別の夢を叶えたい」──目標は人それぞれ。そのビジョンをもとに、5年後・3年後・1年後に何をすべきかを一緒に計画します。

「稼ぎたい、成功したいというのは誰でも言えます。でも“何のために稼ぎたいのか”を明確にしないと、ちょっと条件がいい職場にすぐ流れてしまう。」

安部さんは、スタッフ一人ひとりの人生目標と会社の目標を重ね合わせることが、離職率を下げる最強の方法だと語ります。

また、月1の定期面談ではなく、“気づいたらその場で対話”を大事にしています。

「様子がおかしいな、落ち込んでるなと思ったら、30分でも時間を取って話します。目標を再確認するだけで、気持ちが戻ることも多いんです。」

「働かされる」から「働きを選べる」へ──自立するスタッフの育て方

安部さんのサロンでは、勤務時間にも柔軟なルールがあります。

「11時から20時までが営業時間ですが、早く終わるなら帰っていいんです。」

「お客様に迷惑をかけなければ、11時〜17時で終えても構わない。残りの時間を、自分の人生を豊かにするために使ってほしい。」

これは単なる“時短”ではなく、“自立”の文化づくりです。

「自分で働き方を設計できる人は、責任感が生まれる。働かされるのではなく、働く目的を自分で持てるようになるんです。」

この考え方を貫くことで、スタッフの幸福度が上がり、結果的にサロン全体の雰囲気も良くなリました。顧客満足度も自然に上がり、売上も安定していきました。

経営者として大切にしていること

「人を信じすぎて裏切られたこともありました。でも、それで人を疑うようになったら終わりです。」

安部さんは、“信頼と仕組み”の両立こそがサロン経営の要だと語ります。

「信頼だけでもダメ、仕組みだけでもダメ。人の想いを大切にしながら、それを支えるルールを作ること。それが経営です。」

最後に:サロン経営を「人生の一部」に

「仕事は人生の手段であり、目的ではない。スタッフにも『どう生きたいか』を大切にしてほしい。」

安部さんの言葉には、20年以上の現場と経営の経験がにじみます。自らも苦労と失敗を経てたどり着いた“仕組み経営”の哲学は、これからのサロン業界にとっての羅針盤となるでしょう。

「稼ぐことは難しくありません。でも、稼いだ“あと”にどう生きるかが大事です。」