【世界NO.1ビリオネア2023】LVMHのCEOベルナール・アルノーのブランドポートフォリオ戦略と事業リスク分散の考え方。
2023年、Forbesのビリオネアランキング2023で首位が入れ替わりました。
高級ラグジュアリー・グループ「モエ ヘネシー-ルイ・ヴィトン(LVMH)」を率いるフランス人実業家、ベルナール・アルノー氏(74)がトップに。
LVMHの業績は大変好調で、以前のメルマガでも2022年1月〜6月期に最高益となったことは取り上げましたが、その後も躍進。売上、利益、株価がそろって過去最高水準に達しています。
LVMHの最高益は、コロナ禍だった2020年の3割減益から大きく反転し、世界的金融緩和により資産価格上昇で富裕層のマネーがブランド品に向かったことも牽引しています。
アルノー氏の個人資産は1年で530億ドルも増加し、Forbes推定では資産総額は2,110億ドル。昨年首位だったイーロン・マスク氏を上回っています。
2023年は、イーロン・マスク氏が2位、ジェフ・ベゾス氏が3位、ラリー・エリソンが4位、ウォーレン・バフェット氏が5位と続きます。ビル・ゲイツ氏は6位でした。
さて、世界一の大富豪となったアルノー氏は、約30年前にLVMHの経営権を取得して以来、LVMHを世界最大の高級ブランド企業へと成長させてきました。
成功の秘訣となる経営戦略のうち、今日は「ブランド・ポートフォリオ戦略」からも私たちのビジネスにも生かせるヒントを学びましょう。
LVMHのブランド買収スタイル
LVMHは「ルイ・ヴィトン」「ディオール」「モエ・エ・シャンドン」「ブルガリ」など、75のブランドを要する複合経営をしています。
私はファッションやハイブランドには疎く、ルイ・ヴィトンの財布(カードケースみたいなやつ)を1つ持っているくらいですけどね。
基本はブランドを買収し、自社独自の経営戦略方針『ルールブック』を移植することで、営業利益率を28%にまで高めてきました。2021年にはティファニーを買収しました。
アルノー氏はじめLVMH本体の経営は、ブランド買収後も商品開発やデザインなどには、ほとんど口出しをしないそうです。
経営やマーケティング、数字管理をLVMH本体が担うことによって、買収後の各ブランドをさらに伸ばすスタイルなのです。
ナイキがブランド買収後に商品を"ナイキ流"に変化させることを求め、その後ことごとく失敗しているのに対し、LVMHは各ブランドが買収前までに蓄積してきた商品へのこだわりや想い、信念を尊重するのは、対照的ですね。
ブランドポートフォリオ戦略
ブランド・ポートフォリオ戦略についてですが、ファッション・レザー品、ワイン・スピリッツ、香水・コスメ、時計・宝石、セレクティブ・リテーリングの5部門の収益性と事業効率を分析すると、補完関係にあることがわかります。
たとえば、大黒柱のファッション・レザー品は、営業利益率42%、在庫回転率も10回超ですが、流行に影響を受けやすいのが特徴。
一方、ワイン・スピリッツは、土壌づくりから販売まで長期間かかり、在庫回転率は低いのですが、営業利益率は31%と高く、流行や景気変動の影響を受けにくいのが特徴。
香水・コスメは、単価は低いですが、在庫回転率は8.4回と高めで、安定したキャッシュフローを生み出します。
百貨店や免税店DFSなど小売業態のセレクティブ・リテーリングは、営業利益率は一桁で、景気変動の影響を受けやすいものの、ブランド横断的に顧客接点を広げる役目を果たしています。
部門間で互いにキャッシュや利益を補い合うブランド・ポートフォリオ戦略によって、不況にも耐えられる、あるいは、不況からの業績反転が早い、という強さをもたらしています。
私たちはLVMHのように次々とブランドを買収することはできませんが、LVMHのブランド・ポートフォリオ戦略から「事業上のリスク分散」について、5つのポイントを見つけたのでシェアします。
事業上のリスク分散5つの視点
(1)顧客の分散
複数の事業やブランド展開が可能であれば、要するに、顧客ターゲットの分散を考えると良いでしょう。
たとえば、BtoB・BtoCという分散、対象業種の分散、地域の分散、属性やニーズでの分散です。
(2)施策時間軸の分散
事業ごとの営業・マーケティング施策やチャネルでは、短期的にすぐに業績に直結するものと、中長期的にじっくり時間をかけて成果をあげるものを区別しましょう。
目先の今月来月の営業成績ばかりを追い続けて、近視眼的な施策ばかりではなく、半年後や1年後以降を見据えての売れる仕組みづくりや種まきもバランス良く。
(3)価格帯の分散
商品サービスでは、たとえば、低中価格帯で継続課金モデル(サブスクリプション)と、高価格帯の単発型に区別して整理してみましょう。
事業ごとに扱う商品サービスのタイプを分類してみるだけでなく、各事業・各ブランドの中でも複数の商品サービスを扱っている場合には、価格帯や提供形態のバリエーションを持たせられないか考えてみると良いです。
(4)必需品・奢侈品の分散
必需品は顧客にとって絶対になくてはならない商品サービス、奢侈品は必ずしも必要ではないがビジネスや生活にとっての贅沢やプラスアルファの役割を果たす商品サービスです。
必需品の多くはコモディティ化しやすいものが多く、差別化が難しいので、価格や利益率が低くなりがちですが、不況には強いです。
一方、奢侈品は高付加価値で差別化しやすく、価格や利益率も高くしやすいですが、不況時にはコスト削減の対象になりやすいです。
(5)商品型・販売チャネル型の分散
最後に、各事業で扱っている商品サービスや事業上の強みが、商品型か、販売チャネル型かを区別しましょう。もちろん両方強ければ、それに越したことはないですけどね。
たとえば、LVMHのケースでは、「ルイ・ヴィトン」「ディオール」「モエ・エ・シャンドン」「ブルガリ」はすべて商品型ですよね。
一方、セレクティブ・リテーリングのDFSなんかは、販売チャネルを抑えています。
以前のメルマガでも解説したジャパネットの場合は、ラジオ通販やテレビショッピングを抑えるという販売チャネル型です。
今では独自商品やブランドも投入していますが、以前まではずっとメーカーの商品を売っていましたよね。販売チャネル型の典型例です。
以上、LVMHのブランド・ポートフォリオ戦略から、私たち中小企業にも応用できる視点を5つシェアしました。
盤石な経営基盤を持って、安定成長する会社をつくるために、参考になれば嬉しいです。