断る勇気

私は大学1年生の夏から8ヶ月ほど、大学キャンパスの最寄駅だった高田馬場駅前に当時あった「和民」でバイトを始めました。

「はい、喜んで!」みたいな感じで、いつも明るく笑顔で。元気、元気、元気みたいな雰囲気の店でした。当時の和民の勢いはものすごく、その中でも高田馬場駅前店は日本一の売上を誇る店でした。必死に接客やリセット、ドリンクをこなしていると、あっという間に時間が過ぎる。夕方5時の開店から翌朝5時までの「通し」の後は、本当に意識が飛ぶほどでした。

「はい、喜んで!」と笑顔でYESと答えて、お客様の多少は無茶な要望にもなんとか応えていく。接客サービス業なら、まぁそんな側面もあるかもしれません。しかし、もしあなたが以前の私と同じように、個人サイズでビジネスをやっているフリーランスやコンサルタント、研修講師なら、NOと言うことも覚えておいた方が良いかもしれません。断るということは別に悪いことではありません。それで縁が切れるようなら、それまでの相手だったということで、もっとWin-Winなクライアントを探しにいけばいいだけです。

どうしても相性の悪いクライアント、外注やパートナーを下に見るような横柄な態度の相手、無理難題や値下げを一方的に押し付けてくるような人とは、距離を置いた方がいいでしょう。目先の収入やお金を稼ぐために、あなたが不幸になる必要はない。代わりの何かを失っていることを忘れないでください。

それでも断れないのは、人間誰しも抱く恐怖や損失回避の心理が働くからでしょう。

「断ったらもうチャンスが来ないんじゃないか」

「今月の収入や生活に影響が出るかもしれない」

「嫌われたらどうしよう」

個人サイズのスモールビジネスなら、クライアント数の少なさが不安材料になり、“今の案件を失ったらもう次はない”と思い込みがちではありませんか?結果として無理に受注し、抱えきれない作業量に押し潰されることも珍しくありません。

「どんな依頼でも引き受けられる幅広い対応力こそが自分の武器だ」というプライドが断ることをためらわせるケースもあります。良かれと思って「何でもできますよ」と言ってしまうと、相手が遠慮なく要望を広げ、気づけば自分の専門領域をはるかに超えた領域まで踏み込んでしまうのです。

断ったらもう二度とチャンスが来ない?いいえ、安心してください。世の中は問題だらけ、困っている企業や人間だらけです。チャンスなんか次から次へといくらでも来ます。

嫌われたらどうしよう?いいえ、心配はいりません。仮に嫌われたとして、だから何なのでしょうか?相手は企業です。あなたの代わりなんていくらでも見つかります。あなたのことなんて数日で忘れるでしょう。あなたがいちいち気を咎める必要など本当にあるでしょうか?

もちろん今日の話は、クライアントにも非情冷徹な態度で毅然と対応しろ、という意味ではありませんからね。

あなたは一人のプロとして、クライアントの問題解決に全力で向き合うことはあたり前のことです。お互いに長期的な信頼関係を築き、繋ごうと努力するのは当然です。

でも、プロとして仕事することと、相手の要求に何でもかんでも「はい、喜んで!」と飲むこととは、別の話です。何を恐れて、無理にYESと答えてしまいがちなら、それは結局相手の信頼を損なったり、自分自身のバランスが崩れたりすることにつながります。

そのようなビジネスは、長続きしません。そして、あなたの幸せなビジネスや人生に何の得もありません。

時には、断る勇気をもって。