アカオスパ&リゾートCEO、中野善壽氏の新プロジェクト「PROJECT ATAMI」の発想とは

「僕は、日本に限らず東洋の文化やアイデンティティを表現し、残していくための仕組みをつくりたい」

週刊PRESIDENTの取材で、中野善壽氏はこう答えました。

私が初めて中野氏の存在を知ったのは、テレビ東京のカンブリア宮殿。寺田倉庫の社長として、東京・天王洲アイルを活性化するプロジェクト「TENNOZ ART FESTIVAL」を手がけました。

社長就任時は、寺田倉庫の経営再建がミッションでしたが、中野氏の視座は一企業にとどまらず、地区全体にすでにある資源・資産をどのように話題・集客・収益に変えていくかという物の見方がとても興味深かったことを覚えています。

その後、中野氏の著書『ぜんぶ、すてれば』『孤独からはじめよう』の2冊も拝読。個の生き方・考え方・価値観を重んじ、禅思想のような囚われのない生き様に感銘を受けました。

そんな中野氏が、2021年3月から熱海のホテルニューアカオなどで有名なアカオスパ&リゾートの経営に携わりはじめ、8月に代表取締役会長CEOに就任されました。

「10年前と同じことをやっても仕方ない。さらに脱皮したことをやりたいし、10年後にはもっと別のことをやっていない」

中野氏曰く、アートをビジネスとして捉える人は、芸術には近寄ってはいけないと考えているそうです。「これは将来、いくらで売れるのか」「投資価値はあるのか」と口にする人は、芸術には近寄ってはいけないと。

中野氏自身、いわゆるアート活動を行っているのではなく、アートや心の充足を生み出す人たちに活躍の場所を提供する仕組み、輝ける仕組みを作り、そこに集まる人々の心を満たす仕組みを作ろうとしています。

文化やアイデンティティが残るように、仕組みで解決を図ろうとしているのです。

たとえば、2021年3月、20組のアーティストにホテルの客室を提供し、制作活動を支援するプロジェクト「PROJECT ATAMI」を開始しました。ギャラリーの評価対象になっていない若きアーティストたちが自身のアイデンティティを表現したい、というのが主旨です。

中野氏は、ホテルニューアカオだけを見ているのではありません。熱海全体を見ています。天王洲アイルの時と同じですね。

若きアーティストたちは、熱海の地元で暮らす人々の家の壁に、絵を描かせてもらっているそうです。「一昔前に栄えた熱海」から、「文化や芸術のあふれる街、熱海」へと変わっていきそうですね。

すでにある資源・資産を活用しながら、社会課題を解決したいという志やビジョンを構想し、協力者・賛同者を得て、街全体を巻き込み、話題・集客・収益に変えていく。

そんな中野氏の考え方には、私たちのビジネスも学べる視点があるのではと思います。

そして、さらに重要なポイントは、中野氏の考え方・やり方に巨額の資金も追加投資も必要ではないということ。「大企業だからできる話でしょ?」という逃げ道はないですね。

私たちももっと自由に発想してみましょう。