ホームページにお金をかけても集客できない本当の理由/株式会社KACHI 取締役 久野⾼司
多くの経営者やマーケターが「新規顧客を獲得したい」「採用応募を増やしたい」と考えるとき、真っ先に思い浮かべるのがホームページのリニューアルです。
最新デザインに刷新し、見栄えを良くすれば問い合わせが増えると信じて、数十万円から場合によっては数百万円を投じるケースも少なくありません。
しかし、現実にはホームページを新しくしただけでは集客や採用にはほとんど効果がありません。
なぜならホームページ自体には「集客機能」はなく、訪問者を呼び込むための別の戦略や施策がなければ、ただ存在しているだけの名刺のようなものに過ぎないからです。
かつてはSEO対策を施したホームページが検索上位に表示され、一定の流入が見込めましたが、今や無数の競合サイトが存在し、単なる作り替えでは見込み顧客の目に留まることはほとんどありません。
本来ホームページは、既に興味や関心を持った人が情報を確認するための場所であり、その前段階で見込み客を呼び込む「認知・興味喚起」のプロセスが欠かせません。
それを理解せず、全体戦略を持たないままホームページ制作に予算を注ぎ込むことは、時間とお金の大きな浪費になってしまうのです。
戦略なきマーケティングが招くビジネスの失速
ホームページ制作に限らず、多くの中小企業が陥っているのは「戦略なきマーケティング」です。
具体的なターゲット顧客像や提供価値が明確でないまま、広告や販促物を作り、闇雲に配布・発信を続けても成果は出ません。
例えば新規出店を控えた企業が、わずか1ヶ月前の時点で認知向上の予算をかけたくないと言い出したケースがあります。
集客には必ず時間とお金が必要であり、それを避けたまま成果を出す方法は存在しません。
マーケティングを単なる販促や広告制作の延長と捉えていると、ターゲット外の顧客に向けて無駄な広告を配信し続けることになり、社内リソースも浪費します。
正しいマーケティング戦略は、経営そのものの設計図です。経営者自らが全体像を描き、その上で戦術を選択しなければ、企業の寿命や成長速度、人材の定着率にも悪影響を及ぼします。
マーケティングを誤解している企業が多すぎる
中小企業の現場では、マーケティングに対する誤解が非常に多く見られます。
第一に多いのが「売りつけるためのテクニック」としての誤解です。
本来のマーケティングは、顧客を深く理解し、合わない顧客には無理に売らず、相性の良い顧客に喜ばれる仕組みを作るものです。
しかし、一部では心理的な誘導や巧みな話術だけで成り立つと誤認され、逆に顧客の信頼を損ねる危険な方向に走ってしまうケースもあります。
第二に多いのが「マーケティング=ホームページやWeb集客」という思い込みです。
確かにWebマーケティングは重要ですが、店舗型ビジネスにおいては店頭の看板やチラシ、通行人へのアプローチといったアナログ施策の方が効果的な場合も少なくありません。
例えば地域の歯科医院がSNSやブログで全国に発信しても、地元以外の人は来院しません。
第三に、市場調査や集客など一部分だけをマーケティングと捉えるケースも多いですが、これは全体設計を無視した断片的な取り組みであり、成果が安定しない原因になります。
ホームページは全体戦略の中のパーツにすぎない
経営者がホームページ制作に過剰な期待を抱く背景には、「見栄えの良いサイトを作ればお客様が自然に集まるはずだ」という思い込みがあります。
しかし、現代のWeb環境ではホームページは単独では集客できません。そもそもホームページを訪れるのは、すでに何らかの形で企業やサービスを認知し、詳しく知りたいと思っている人だけです。
つまり、ホームページは「ゴール地点の案内板」であり、「入口の看板」ではありません。入口にあたるのは広告、SNS、リアルイベント、口コミなど、訪問のきっかけを作る施策です。
これらの導線を整えずにホームページを作っても、アクセスはほとんど増えません。
さらに、多くの企業は広告費には消極的でもホームページ制作費には比較的寛容で、50万円〜100万円を投資してしまいます。
しかし、その金額を認知や興味喚起の施策に回した方が、長期的な利益につながる可能性が高いのです。
マーケティングを難しくしているのは専門用語と断片的理解
マーケティングを「難しいもの」と感じる経営者は少なくありません。その背景には、抽象度の高い理論や横文字の専門用語が多用されることがあります。
バリュープロポジションやUSPといった言葉を理解すること自体は悪くありませんが、それらを使わなくても本質は説明できます。
また、マーケティングに関する情報は発信者によって定義やアプローチが異なるため、部分的な手法だけを学び取って全体像を見失いがちです。
本来、マーケティングの基礎は「誰に」「何を」「どうやって」提供するかを明確にし、そのプロセス全体を俯瞰することです。
経営者が自分自身の購買経験に置き換えて理解すれば、不要な専門用語を使わずとも施策の目的と役割を整理できます。
この全体地図を持たないまま新しいツールやトレンドに飛びつくと、自社に合わない施策に時間と予算を奪われることになります。
中小企業こそマーケティング視点を持つべき理由
「うちは小さい会社だからマーケティングはまだ早い」という声もよく聞きます。しかし、規模の大小に関わらず、顧客を理解し適切な方法で価値を届けるのは経営の基本です。
マーケティングを大企業やIT企業の専売特許のように捉えてしまうと、競争優位を築くチャンスを逃します。中小企業こそ、限られたリソースを最大限活かすためにマーケティング戦略が必要です。
マーケティングは部署や役職に限られた業務ではなく、経営者自身が方向性を示し、現場が一貫した方針で動けるようにするための指針です。
全体設計があれば、失敗の原因も明確になり、改善のための打ち手も迅速に打てます。
まとめ:ホームページ制作はゴールではなくスタート
ホームページは企業活動において必要なツールですが、それ単体では集客も採用も実現できません。
真に成果を出すためには、まず「誰に」「何を」「どうやって」届けるのかという戦略を明確にし、その上で適切な手段としてホームページや広告、SNS、リアル施策を組み合わせることが重要です。
経営者がマーケティングを経営の中心に据え、部分的な手法ではなく全体像を理解すれば、限られた時間と予算でも最大の効果を引き出せます。
ホームページ制作に予算を投じる前に、まずは戦略を固め、顧客との接点を増やすための具体的な導線設計に着手することが、長期的な集客と売上アップへの近道となります。